2020-10-22

そうちゃんのやりたい事



毎年の年末年始は実家に帰るようにしている。元旦は、家族とともに薫とえりちんとこの友達家族もやってくる。2件ともシングルマザー。
薫のところは看護婦さんになりたい高校生のタマちゃんとサッカー少年のそうちゃん。旦那さんは、3.11の前日に出て行ってそのまま帰ってきてない。
えりちんとこは、私立の中学校に通うまよちゃん。旦那の茅葺き職人だったそわかは3年前の夏にあっけなく屋根より上まで登って行ってしまった。

まだそわかが今世で茅葺き屋根職人をしていた頃、うちの実家とそわかの実家が歩いて行けるほどの距離だということに気づき、元旦の日の酔い冷ましにと たまちゃんそうちゃんに姪っ子たちも伴って犬の散歩に出かけた。そわかに電話してみると、100メートルほど先の小道から元気な顔が見えた。
「おめでとう」
「おめでとうございます。」
「うちに来て飲まない?」
「いいね、おじゃまする。」
正月に実家で飲むのは恒例となり、お互いに出会えるのを楽しみにしていた。

立春がすぎたころ、薫からこんな話を聞いた。
中学2年生のそうちゃん。間も無く学校である立志会で提出する作文がなかなか書けない。
「たまちゃんはなんて書いたの?」
「あのこは、その時から看護婦さんになりたいって言ってたわよ」
「僕、まだやりたいことなんて思いつかない。先生にそう正直に言って書いていいですかって聞いたら、ダメって言われた。とにかくなんでもいいから書きなさいって。」
この作文で生徒一人一人の進路の方向性を先生たちが考える材料にするらしい。

「ねぇ、ママ 僕 建築とかが興味あるかな?」
「え?そうちゃんが建築?ゼネコンとか?なに?どんな感じの建築?」
「あの、ほら宮大工とかっていうと? あのそわか君みたいな仕事。」
「茅葺き職人?」
「それそれ!僕、あんなのがかっこいいと思う。」
「へぇ〜!じゃそのことを書いてみたら。」

小学生の頃、2回元旦にそわか君に出会っただけのそうちゃん。
最後にそわかくんを見たのは、お葬式の時に流れていた彼の茅葺き職人の頃のビデオ。
また、来年の元旦に会うのが楽しみだね。







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