2009-12-25

クリスマスの夜に


クリスマスに自分へのプレゼントに本を買いました。
ポーモン婦人の『美女と野獣』
この話しもおもしろいのですが、
この話しの次におかれていた『二人の王子さま』
という話しは、とてもわたしの心に残るモノでした。
人は育っていく過程がちがうと、どんなにいい境遇で生まれても不幸だったり、
厳しい試練を耐えぬくとより優しくすばらしい人格が形成されていく。
さまざまな登場人物たちは、あれ、こんな人どこかに…(笑)
童話って、やっぱり奥が深いなぁ
ネットでどこかにのってないかなって探したけど、見つからなかったので
がんばって打ち込んでみました。
わたしからみなさんにクリスマスプレゼント

『二人の王子さま』

 昔一人の王妃さまがおりました。この王妃さまには類いなく美しい、二人の男の子
がありました。王妃さまのお友だちにひとりの仙女がおりました。王妃さまに、この
プリンスたちの名付け親になって、何か贈り物をしてくれるようにと頼まれると、仙
女はこう申しました。
『お兄さんのほうは、二十歳になるまで、あらゆる不幸を味わうだろうね、そこで、
わたしはこの子をファタール(不運な子供)と名付けてあげよう』
この言葉を聞くと、王妃は悲鳴を上げて、仙女にそんな決心を代えてくれるように哀
願しました。
『あんたは自分がなにを頼んでいるか、その意味が分かってないんだよ』と仙女が王
妃に申しました。『もしこの子が不幸な目に遭わなければね、この子は悪者になって
しまうよ』
 これを聞くと王妃はもう何も口に出す勇気はありませんでしたが、ただせめて二番
めの息子のために送るものは自分に選ばせてくれ、と仙女に頼みました。
『きっとあんたは、ぜんぜん見当はずれのことを選ぶだろうね』仙女が答えました。
『でもかまわないさ、あんたが子のこのために頼むことなら、大喜びでその通りにし
てあげるよ』
『お願いですから、この子がしたいと思うことは、いつでも何でも思ったとおりにな
るようにして
ください』王妃が申しました。『つまりそれは、非のうちどころのない、りっぱな人
間になる方法ですものね』
『おそらくそれはあんたの思い違いだと思うけどね』仙女が申しました。『だから、
あの子を申し出のとおりにしてあげるけど、ただし二十歳までだよ』
 このかわいい王子に乳母がつけられました。ところが、三日目になるともう、お兄
さんの王子の
乳母は熱病にかかってしまいました。そこですぐべつの乳母をつけると、今度はその
乳母が足を折ってしまう始末です。こうなるともう、だれひとりこの王子の乳母にな
ろうというものはなく、そばに近づくものもなくなってしまいました。哀れなこの子
供はお腹が空いて、大声でわめきましたが、だれひとりこの子がかわいそうだという
者もおりません。ちょうど、ひとりとても貧乏な肥った百姓のおかみさんが、もし自
分にたくさんお金をくれれば、この子の面倒をみてもいいと申し出たので、王様も王
妃さまも、この女を乳母にして望みどおりのものを与えてやりました。


フォルチュネ(幸運な王子)と名付けられた二番めの王子のほうは、反対にりっぱな
成長ぶりでした。両親は狂気のようにこの王子をかわいがって、上の王子のことなん
かちっとも考えませんでした。ファタールが預けられた乳母は悪い女で、すぐには自
分の家へ帰りませんでした。王子がくるまっていたきれいな肌着を王子からはぎとっ
てしまい、ファタールと同じ年ごろの自分の息子にそれを着せ、この哀れなプリンス
を汚いスカートにくるんでしまいました。そして野獣がたくさん住んでいる森の中へ
王子を抱いていき、食べられてしまえ、とばかりに、三頭のライオンの子といっしょ
に穴の中へ王子を置き去りにしてしまいました。
 ところがライオンの母親は、王子に何の害も与えませんでした。それどころか反対
に王子に乳を含ませてやり、王子がうんと丈夫になるように育てたので、六ヶ月もす
るとひとりで駆け回れるようになりました。いっぽう、百姓のおかみさんが王子とし
て育てていた、おかみさんの息子のほうは死んでしまったので、王様も、王妃さまも
王子はもう死んだものと信じ込んでいました。
 ファタールは二歳になるまでは森に放っておかれましたが、ある日、狩りに来た宮
廷の貴族が森を通りかかって、けものたちにまじって遊んでいる王子に出会ってびっ
くりしてしまいました。その貴族はこの子供をふびんに思い、自分の家に連れ帰ると、
ちょうどフォルチュネ王子の友だちになる子供を探していることを聞いたので、ファ
タールを王妃さまに引き合わせました。フォルチュネには、字を読む勉強をするため
に、先生がつけられておりましたが、先生は絶対に王子を泣かせるようなことはまか
りならぬ、と命令されておりました。前からそれを聞いていた若いプリンスは、本を
取るたびに、わざと泣いてみせるのでした。こんな具合ですから、五年たっても王子
は字を知りませんでしたが、反対にファタールのほうは完全に字を読むこともでき、
そればかりかすでに字も書けるくらいでした。
プリンスを脅すために、先生は、フォルチュネが宿題を忘れたら、そのたびにファタ
ールのほうを、鞭で打ってやりなさい、という命令を受けました。ですから、ファタ
ールはどんなにいっしょうけんめいにおとなしい子になろうとしてもむだで、無知で
たたかれるのを逃れることはできませんでした。
 もとよりフォルチネはわがままで、意地悪だったので、いつも自分の兄さんにひど
い仕打ちをするのでした。もっとも兄さんといっても、フォルチュネはそのことをし
らなかったわけですが。こんなふうにして、二人は十年間を過ごしましたが、このこ
ろになってようやく、王妃は自分の息子の無知を知ってとってもびっくりしてしまい
ました。
『仙女があたしを騙したんだわ』と王妃が申しました。『あたしの息子は、あらゆる
プリンスのうちでもいちばん学問ができると信じていたわ、だって、あたしは、王子
がやろうとすること思った
ことならなんでも成功できるようにってお願いしたんですもの』
 そこで王妃は、この問題について仙女に相談にまいりますと、仙女はこんな返辞を
しました。
『王妃よ、あなたの息子さんには、才能なんか願うより、むしろ善意をお願いすべき
でしたね。あの子はね、悪くなることしかのぞまなかったのさ、そしてそのとおりに
なったのさ、ごらんのとおりにね。』
 王妃にこんな言葉を言ってしまうと、仙女は王妃に背を向けました。
 その間にプリンス・ファタールは学問も心の優しさもすっかり身につけておりまし
た。ファタールは反対されることにすっかり慣れてしまったので、もう自分の意志も
もたず、ただひたすらにフォルチュネの気紛れな気持ちを読み取るように心掛けてお
りました。ところがこの意地悪な王子は、自分よりも優れているファタールを見ると
かんしゃくを起こして、とうとう王妃さまに、もうファタールの顔も見たくない、
ファタールをこの宮殿から追っ払わなければ、あいつを飢え死にさせてやる、などと
申し出る始末でした。
 こうしてファタールは道にほうり出されました。それに王子のご機嫌を損ねるのが
怖いので、だれひとりファタールを迎えてくれる者もありませんでした。ちょうど冬
のことだったので、ファタールは洞窟で一夜を過ごしたものの、寒さのために死にそ
うで、夕食といっても、かわいそうだか
ら、と恵んでもらったひとかけのパンしかありませんでした。
 そのよく朝、ファタールは目をさまして、ひざまずき、お祈りをはじめました。そ
こへ通りかかった旅人が王子の姿を見つけて、心の中でこんなことを申しました。
『この子はきっと正直な少年にちがいない。わたしの羊の群れの番人にこの子を雇い
たいものだな。この子を助けてやれば、神様はわたしを祝福してくれるにちがいない』
 旅人はファタールのお祈りがすむのを待ってこう申しました。
『ネエきみ、わたしのところへきて、羊の番をする気はないかね?もちろん食事のほ
うは引き受けるし、いろいろ面倒も見てあげるよ』
『ぜひやらしてください』とファタールが申しました。『できるかぎりあなたのお役
に立つようにいたしますから』
 このお百姓は大きな農園主で、ずいぶんたくさんの召使いを使っておりましたが、
召使いたちはしょっちゅう主人のものを盗んでおりました。お百姓の妻や子供たち
までそのお百姓をごまかしておりました。ファタールに会って、連中は大喜びで。
こんなことを申しました。
『まだ子供だよ、こんな子供ならあたしたちの思いどおりになんでもやってくれる
だろうさ』
 ある日、細君がファタールにこんなことを言いました。
『ネエおまえ、うちのひとときたらけちんぼでね、あたしにけっしてお金をわたし
無いんだよ。あたしが羊をつかまえるのを見逃しておくれ、なあに、狼が羊を盗ん
だって言っておけばいいだろ』
『奥さん』とファタールが答えました。『ぼくは心からあなたの力になりたいんで
すが、でも嘘をついたり、泥棒になるくらいなr死んだほうがましですよ。』
 細君はその言葉を聞くと、ファタールにとびかかって、ファタールに平手打ちを
くわせ、髪の毛をむしりとりました。ファタールが泣きだしたので、その声を聞い
た農園の主人が、細君に、どうしてこの子を殴ったりしたんだい、と尋ねました。
『ほんとに、この子ったらくいしんぼうなんですよ』と細君が申しました。『市場
へ持って行こうと思っていたクリームを一瓶、今朝この子がなめているところを見
ちまったんですよ』
『あきれたやつだ!くいしんぼうだっていうのはいやしいことだぞ』と主人が申し
ました。そしてすぐに召使を呼んで、ファタールを鞭で打つように命じました。
ぼくはクリームをなめたりしません、とこの哀れな子供がいくら言ってもむだでし
た。みんなこの子供より女主人のほうを信用していたからです。でも、この意地悪
な女にとっては、復讐はそれだけでは充分ではありませんでした。他の召使一同に、
ファタールをいじめるように約束させたのです。
 ファタールは昼も夜も野原に放っておかれて、他の召使たちのようにちゃんとし
た食物を与えられる代わりに、細君は水とパンを届けてやるだけでした。家に戻っ
てくると、細君は家のなかに起こった悪いことを全部ファタールのせいにしてガミ
ガミと言うのでした。ファタールはこの農園主のところで一年ほど暮らしました。
地面に寝て、ひどい食べ物ばかり食べていましたが、ファタールはとてもりっぱな
体格になって、ようやく十三歳になったばかりなのに、充分十五才ぐらいに見えま
した。もちろんファタールはずいぶん辛抱強くなっておりましたので、見当違いの
ことでだれかに怒られても、そう気に病まないようになっておりました。


ある日のこと農園にいると、隣国の王様が大戦争を始める、という噂を耳にしたの
で、ファタールは主人に暇をもらって、その王様の国まで歩いてやっていきました。
兵隊になろうと思ったのです。ファタールはある隊長の部隊に入隊しましたが、こ
の隊長は大領主で、ただとても乱暴な男だったので、みんなに軽蔑されておりまし
た。この意地悪な隊長のもとでファタールはあの農園主の家にいた時よりも、もっ
ともっと不運な目にあいました。ファタールは十年間の約束で入隊したのですが、
たくさんの仲間がどんどん逃げていってしまいました。けれどもファタールは仲間
の例を見習おうとはけっして思いませんでした。ファタールはこんなことを言って
いたからです。『ぼくは十年間奉公するという約束でお金をもらっているんだ。も
し、約束を破ったら、ひとのも
のを盗んだのと同じことになるじゃあないか』
 隊長は意地の悪い男で、他の兵隊を扱うのと同じようにファタールにもずいぶん
とつらく当たりましたが、ファタールは隊長を尊敬する気持ちを捨てることができ
ませんでした。それというのも、ファタールには隊長が自分の義務をつねにりっぱ
に果たしているのがわかったからです。隊長はファタールにいろいろな使いを頼ん
でお金をくれました。そしてファタールは、隊長が戦場に出かけたり、友だちと一
緒に食事をするときなどは、隊長の部屋の鍵を預かることになりました。この隊長
は読書は苦手でしたが、でも自分を尋ねてくる人たちに、自分がひとかどの教養の
ある男だと思わせたかったので、大きな図書室をもっておりました。ファタールは
兵隊としての自分の任務を負えると、仲間の兵士たちとお酒を飲んだり、バクチを
打ったりする代わりに隊長の部屋へ閉じこもって、偉人たちの伝記を呼んで軍人と
しての仕事をいっしょうけんめいに学んだので、もう充分軍隊を指揮
できるようになりました。
 とうとう戦争が始まったときには、ファタールが兵隊になってからすでに七年も
経っておりました。隊長は自分で六人の兵隊を率いて、小さな森を偵察に出かけま
した。そしてこの小さな森に着くと、兵隊たちは低声でこんなことを言いました。
『この悪者は殺しちまわなけりゃいけねえ。なにしろこいつは、オレたちをずいぶ
ん杖で撲りつけたり、俺たちのパンをごまかしたりしているんだからな』
 ファタールはそんな卑怯なことをしないようにみんなを説得しましたが、その言
葉に耳をかすどころか、兵隊たちは、隊長といっしょにこいつも殺っちまえ、と言
って、五人とも槍を構えました。ファタールは隊長の味方になってすばらしく勇敢
に戦ったので、ファタールひとりでこの兵隊のうち四人までも殺してしまいました。
隊長は、ファタールが自分のいのちの恩人だったのをみて、自分が今までファター
ルに下いろいろな意地悪について、許しを請いました。そして、自分の身の上に起
こった事件を王さまに話しましたので、ファタールは隊長に任命され、その上王さ
まに莫大な手当を賜りました。
 新しい任務についても、ファタールは兵隊たちから慕われました。その間に大戦
争が起こって、軍隊を指揮していた将軍が討ち死にすると、兵士もみんな退却し始
めましたが、ファタールは卑怯者として退却するよりは、武器を手にしたまま戦死
するほうがりっぱだぞ、と大声で叫びました。
すると兵隊たちは、口々に隊長を見捨てて逃げたくない、と叫びました。ファター
ルのりっぱな姿がほかの兵隊たちに恥ずかしい気持ちを起こさせ、みなファタール
のまわりに列を作り、勇敢に戦ったので、とうとう敵の王さまの王子を捕虜にして
しまいました。
 王さまは、ファタールのおかげでこの大勝利をえたことを知るとたいへん満足な
さって、ファタールを全軍の総指揮官に任命しました。王さまはファタールを王妃
さまと、娘のプリンセスに紹介いたしました。ファタールはプリンセスを一目見る
と熱烈に彼女を愛してしまいましたが、慎重にこの愛情を心に秘めておきました。
 ところがファタールは、フォルチュネがグラシューズ(優雅な姫)という名のこ
のプリンセスの肖像を見て、グラシューズと結婚したいと思い、彼女に結婚を申こ
込むために大使を送ってきた、ということを知りました。ファタールは悩みに悩ん
で、息も絶えるような心地がしました。ところがプリンセス・グラシューズのほう
では、フォルチュネが卑怯で、意地悪な王子だ、ということを知っていたので、父
上の王さまにあの王子とむりに結婚させないでください、といっしょうけんめいお
願いしたので、プリンセスはまだご結婚なさる意志はない、と大使に返辞をいたし
ました。
 今まで一度も人に反対されたことのないフォルチュネは、プリンセスの返辞が彼
のところへ届いたとき、火のように怒りだしました。王子になにひとつ反対できな
い父君は、しかたなくグラシューズ姫の父君に対して宣戦布告をしましたが、これ
を知った姫がたいそう心配いたしますと、父君はこんなことをおっしゃいました。
『わたしの軍隊の指揮官にファタールがいるかぎりは、打ち破られる心配なんかな
いよ』
 王さまは将軍を呼びにやり、将軍に向かって戦争の準備をするように呼びかけま
した。ところがファタールは王さまの足下に身を投げかけて、わたくしはフォルチ
ュネ父君の国で生まれました、自分の王さまと戦うことはわたしにはできません、
と申しました。グラシューズの父君はたいへんお怒りになって、ファタールにもし
わしの命令に従うのがいやならば、おまえを殺させてやる、反対にもしおまえがフ
ォルチュネに勝ったならば、娘をおまえの嫁にやろう、と申しました。狂気のよう
にグラシューズを愛していた哀れなファタールはあぶなくその気になりそうになり
ましたが、とうとうファタールは自分の義務を果たそう、と決心しました。王さま
にはひと言も言わず、ファタールは宮廷を去り、自分の財産もすべて捨て去りまし
た。


さていっぽう、フォルチュネは、この戦争のため自ら陣頭に立って指揮をとってお
りましたが、四日ばかりすると披露がもとで、どっと病み、床に付いてしまいまし
た。なんといってもいままで一度もからだを鍛えたことなどないので、とてもデリ
ケイトな体をしたいたからです。ちょっと暑かったり、寒かったり、どんなことで
もすぐ病気になってしまうのです。ところが、フォルチュネのご機嫌をとろうとし
た大使が、王子にむかって、わたしはグラシューズ姫の宮廷で、わたしがその昔こ
の宮殿から追っ払ったあの小僧に会いました、なんでも人の話しによると、グラシ
ューズ姫の父君はあの小僧に姫をめあわせると約束なさったそうでございます、と
つげ口をしました。このニュースをきくと、フォルチュネはものすごいいきおいで
怒り、病気が癒るとすぐに、グラシューズ姫の父君を王座から追放するために出陣
し、予のところへファタールめを連れてまいった者には莫大な賞金を取らせる、と
約束しました。フォルチュネは大勝利をおさめましたが、その実、王子は自分が討
ち死にするのが、恐ろしいので自分は戦いませんでした。とうとう敵の首都を包囲
してしまい、いよいよ攻撃をかけようと決心いたしました。ちょうどその前日、太
い鎖に繋がれたファタールが王子のところへ連行されました。というのは、ファタ
ールを探し出そうと、おおぜいの人間を道路に配置してあったのです。サァ、これ
で恨みが晴らせるぞ、といい気持ちになったフォルチュネは、攻撃にかかる前に、
敵の見ている前でファタールを血祭りにあげ、首を打ち落とさせてやろうと、決心
いたしました。
 ちょうどこの日は、王子が二十歳になった誕生のお祝いのために、将校たちにド
ンチキ騒ぎをしてもよいという命令が出ておりました。町のなかに包囲された兵隊
たちは、ファタールが捕らえられ、一時間後にはファタールが首を斬られてしまう、
ということを知ると、ファタールを助け出すか、そうでなければ戦死するかだ、と
悲壮な決心を固めておりました。それというのも、ファタールが自分達の将軍だっ
たあいだ、兵隊たちにほどこした、さまざまな親切を思い出したからです。兵隊た
ちは王さまに町から討って出るお許しをえて、今度は見事に敵をやっつけました。
仙女がフォルチュネにさずけた幸運の贈り物はもう期限が切れていたのです。退却
しようとしたとき、フォルチュネは敵に打ちとられてしまいました。
 兵隊たちがファタールの鎖を解こうと駆け寄りました。ちょうどその時、空にあ
かあかと灯りの輝いた馬車が二輛現れるのが見えました。一輛の馬車には仙女が、
べつの一輛のほうにはファタールの父君と母君が乗っておりましたが、二人ともぐ
っすり眠り込んでおりました、馬車が地上に降りたときになって、ようやく二人は
目をさましました。そして二人は、自分達が軍勢のまん中にいるのを見てびっくり
してしまいました。そのとき仙女は、王妃さまに話しかけて、王妃さまにファター
ルを引き合わせ、そうしてこんなことを申しました。
『王妃よ、このヒーローがあなたの上の息子だということが分かりますか。この子
がさんざん味わった不幸が、この子の、乱暴で、すぐ頭にカッとくる性格の欠点を
直したんですよ。反対に、フォルチュネのほうはね、生まれつきはなかなか性格の
いい子だったんだけどね。まわりの者のおべっかですっかり甘やかされてしまった
んですよ。だから神はあの子が長生きすることをお許しにならなかった。なにしろ、
日一日と悪くなるばかりだったからね。あの子は今しがた討ち死にしたところです。
でもね、あの子が死んだからって嘆くにはあたりませんよ。よおくお聞きよ、あの
子はね、自分がなかなか王さまになれないのにうんざりして、自分の父親を王座か
ら追い落とそうとたくらんでいたところだったんだから』
 王さまも王妃さまも本当に驚いてしまいましたが、みんなが口をきわめてほめそ
やすのをきいておりましたので、心から喜んでファタールを抱擁しました。
 プリンセス・グラシューズも父君もファタールの不思議な身の上話を聞いて大喜
びでした。そしてファタールはグラシューズと結婚し、姫といっしょに永いあいだ、
なかむつまじく暮らしました。というのは、二人の仲は美しい心で結ばれていたか
らです。

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