2007-04-09
逆転ホームラン
うちの店にときどき来るあるお客さん。
彼女は何年か前にご主人を失った。癌だった。そのことを宣告されたときには、その現実を受け止めるまでが苦しかったらしい。病院に入院させたことにも後悔していた。未亡人になってからは、まわりから助けられたり揶揄されたりの日々だった。すごく寂しかっただろう。
数年して彼女に彼氏ができた。あまり回りににどうどうと紹介できることのできないような彼氏だった。前科一犯。薬物中毒である。私の知るかぎり、その後二回警察に捕まった。その度に彼女は泣いて私のところにやってきて、どうしようと言ってきた。三度めのときにはいいかげんにしたら?と言ってみた。私は友人の 精神保健福祉士(精神科のカウンセラーのような人)にいろんなことを尋ねた。薬物依存にかぎらず、ほとんどの病気がその病気にかかった時間と同じくらい治るのにはかかるということ。本人が改心しなければ回りがどんなにがんばっても、直る見込みがないこと。万が一の逆転ホームランはほんのわずかな人にしか見られないこと。彼女は彼を助けているような自分に酔っていった。彼がイライラすれば自分もイライラし、喧嘩をふっかけられればこたえ、顔や体に痣ができている日もあった。この頃、彼女の精神も少しゆがんでいるのが私にはわかった。なぜに彼女はそんな彼に固執するのか私には不思議でならなかった。ただ、亡くなった前のご主人を助けることができなかったトラウマがあるのは感じる。何回か彼女と口をきかない時期もあった。どう接していいのかわからないし、遂には二人の喧嘩の仲裁に入らされ、夜中に、カーッとなった彼の方が私の家にやって来ることもありすこし私は怖くなってきた。なんせどんな行動をするかわかりませんからね。ただ、彼女にはあなたがどんなに献身的にしても彼が変わらないことにはどうしようもないよ、とは言っておいた。
言い放っては見たものの、ものすごく心配だった。そう、私は自分のことのように人のことを心配する癖がある。どうして彼女はあんな人生を棒に振りそうな人を敢えて選ぶのだろうか?とか。何のメリットがあるんだろうか?とか。やっぱり体?とか、いろいろ考えた。
しばらく音信不通の日が続いた、ある雪の降る日に彼女がやってきた。 涙をぽろぽろこぼしながら。ごめんねマコさん。あなたの言ううとおりだった。と彼女は言ってきた。私はホッとした。とりあえず彼女は現実に気がついた。自分が彼のペースに飲み込まれていたことを深く反省していた。精神病院に行って、同じような症状の患者を持つ家族との話し合いでそのことにやっと気がついたらしい。以前私や回りの人が話していたことはその当時の彼女には聞こえていなかったらしい。時間が経ち、やっと彼女の中に聴く耳ができていったらしい。
それからまた少し時間が経ち、ふと思い立ち彼女に連絡を取ってみた。彼は今のところ荒れることもなく、今までは続けることすら難しかった仕事に通ってるらしい。彼女はと言えば、相変わらず献身的に彼のことを支えている。しかしそのスタイルが変わった。すごくすごく長い道のりだったけど、彼女は今、 精神保健福祉士の国家試験を受けようと張り切っている。彼と似たような人やその家族を助けたいのだと言う。この仕事を見つけ出すきっかけを作ってくれた彼に感謝していると言う。自分もつらい経験をしてきたから、そのことを今苦しんでいる人に多少なりともアドバイスできたらうれしいと。現実をしっかり受け止め、もっと知識のある人の話を聞いたりそう言う人の書いたものを読んだりして、知識を高めていくこと。そして、素直に聴く耳を持つことが、いろんな困難を乗り越えていく鍵だね。と彼女と言い合った。
もしかしたら逆転ホームランが高々と打ち上げられる日が来るかもしれないな。と思った。
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2 件のコメント:
いい「話」やんねー。マコちゃんも、なれるよ!その「なんたれ」って仕事(笑)。
薬物・アルコールも含めて・・、大変だよねぇ・・。うさぎは「ドラマがない」人生で、悪いみたい(笑)。凡人やもんねっ。
でもね、どういう人生であれ、みんな「けなげ」だと、うさぎは思います。今を、せいいっぱい生きること・・大事やもん。
風邪は、どうですか~。おだいじにー。
ケイタイデビューした、のうさぎ
今を精一杯、一番大事なことですよぉ〜
風邪でしょ、あともうちょい。
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