2008-03-30

初恋の人


『あなたは初恋の人のことを憶えていますか?』
そう,お客さんから聞かれた。
不意打ち。
ボクはその初恋の人のことを想って,生きる原動力にしています。
私より,かなり年上のその方はそういって嬉しそうに遠くを見つめていた。

『ユキヤナギが奇麗ですね、この花を見るとある女(ひと)のことをおもいだす。』
と,まもなく定年なんです。と言っていたお客さんの口からポロンとこぼれた。
それ以上は何も言わないし,こっちも聞かない。


初恋の思い出とは誰にとってもいいものである。
こんな話をうちの店ではよく聞く。
別にお酒を飲んだわけでもないのに
まるですこし酔っているような気分で…
きっと,雑踏を離れたこの場所が人にそんな開放感を与えるのかもしれない。

私の初恋は?
どこに行ったんだろう?
小学生の頃いっしょに自転車で野山を二人で走ったあの男の子だろうか?
顔も,名前も思い出せない。
ただ,まわりの景色に花がビッチリ咲いていたことだけが思い出される。

人の初恋とはそれぞれに映画のようなものだなぁと思う。
そう考えていたら、映画
『ニューシネマパラダイス』や
『ジャック・ドゥミの少年期』、『ローラ』のことなんかを思い出した。
『ジャック・ドゥミの少年期』は彼の人生のパートナーである、アニエスヴァルダ監督が彼が亡くなってから仕上げたもの。
やさしい香りのするこの映画が好き、舞台になった場所はそのまま残っている。
そして、
『ローラ』 この映画はヌーヴェル・ヴァーグの真珠とよばれている。
初々しいアヌーク・エメがたまらなく美しい。
このエメが、けなげに紆余曲折ありながら初恋の人を待つ映画。
画面いっぱいにまさに真珠の粒がこぼれんばかりの映画である。
この映画もドゥミの映画も舞台はフランスの港町ナント。
エメが下りた階段を自分もエメになった気分で上ったり降りたりした記憶がある。

素敵なシーンは一回しかない。
そのシーンが心に焼き付くと人生の大きな生きる原動力となり
明日の光が見えてくる。
そのひとつの美しいものに
『初恋』というものがあるのかもしれない。
人生で一回しかおとずれないものだから。

0 件のコメント: