2007-11-05

バロックミュージック



すこし肌寒くなってくると、無性にバロックミュージックが聴きたくなる。
バロックミュージックに囲まれて生活していた頃。
フィレンツェの山奥、モンテセナリオの”casa del vento(風の家)”という名の家にに住んでいた。築二百年を超える美しい農家。
庭は、かるくにほんの小学校の校庭くらいはある。


持ち主は大学教授を終えたあと法律の分析の仕事をしている中年男性。その人と私はおおよそ一年生活を共にした。

年の違う、そして異国の顔を待つパートナーは、お互いの国で自分のパートナーがどんなに目立つ存在なのかを、お互いに感心し合って見ていた。道を歩けば人が振り返る。
  
わたしたちは週末毎週のように小旅行へ出かけた。
日本にいるときには箱根や日光、浅草。
イタリアでは、ラベンナ、ヴェネチア、北へ南へと走らせるその車は、日本のスポーツカー。
何もかもが贅沢すぎた。

何も不自由が無いその生活は、あることを私に気づかせた。

私が心を休められるのは、美しい音楽を聴いているときや、日記や手紙を書いている時、数少ない日本から持ってきた本を読んでいる時。

PCのフロッピーを持ってきたけど、入れてみればアラビア文字のような解読不可能な文字の羅列。

友達なんて、近くにいなかった。
彼とも、同じ言語を使うもの同士でさえ意思の疎通が難しかったりするのだから、
正直、最終的に心なんて通い合わなかった。
心の話をする人が近くに欲しかった。

美しい地中海の夏がおわり、
肌寒くなってマントルピースの火に薪をくべていたころの寂しくてたまらなかったころの自分を
バロックミュージックを聴くと思い出す。

どう表現していいかわからない、一人ぽっちの淋しい自分を思い出す材料。

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